コーヒー豆の保存方法で味はどう変わる?豆・粉/常温・冷凍を比較検証(Research Note #01)

自宅でできる実験

この記事の結論

  • 粉の常温保存は、香り・味ともに劣化が早く推奨されない
  • 冷凍保存は有効だが、豆のままのほうが鮮度を保ちやすい
  • 豆の状態で1〜2週間エイジング後に冷凍する方法が最もバランスが良い

上記結論に至るまでの過程を、
以下では「なぜそうなったのか」という視点で整理していきます。

背景

あるとき知人からコーヒー豆の正しい保管方法を尋ねられました。
そこで私は、

  • 挽くタイミング
  • 保管温度

この2点が、味や香りにどの程度影響するのかを、
以下の条件で比較・検証することにしました。

  • のまま冷凍庫で保管した場合
  • にしてから冷凍庫で保管した場合
  • にしてから常温で保存した場合

本記事では ご自宅で再現できるポイントも併せて記載しています。
ぜひ一緒に試してみてください。


仮説

  • コーヒー豆の劣化は 酸素・温度・湿気 に大きく依存する。
  • 粉砕すると表面積が飛躍的に増え、劣化スピードが速くなる。
  • 粉砕後の時間が長いほど、香り・ガスの保持量に差が出る。

以上から、

豆のまま冷凍保管し、抽出直前に粉砕する方法が、
最も新鮮な状態で抽出できる


と仮定しました。

実験条件

1:比較対象

  • のまま冷凍庫で2週間保管
  • にしてから冷凍庫で2週間保管
  • にしてから常温で2週間保管

2:使用した豆・器具

  • :グアテマラ レタナ農園 イエローブルボン フルウォッシュド(中深煎り/辻本珈琲)
  • ミル:コマンダンテ C40(30クリック)
  • ドリッパー:HARIO スイッチ(SSD-200-B)
  • ケトル:Brewista アルティザン グースネック バリアブルケトル 0.6L
  • スケール:HARIO Coffee Scale Polaris
  • ペーパーフィルター:CAFEC アバカペーパーフィルター
  • サーバー:HARIO V60コーヒーサーバー450

3:抽出条件

  • 湯温:92℃
  • 粉量:15g
  • 湯量:225g(1投式)

ご自宅での再現ポイント

上記と同じ道具がなくても問題ありません。
ご自宅のコーヒー器具、普段通りの抽出方法で代用可能です。
重要なのは、比較する条件を揃えること。
同じ粉量・同じお湯量・同じ抽出方法で統一しましょう。


実験手順

Step 1:粉砕して香りを比較

コーヒー豆には揮発性の高い香気成分が多く含まれ、 粉砕直後でしか感じられない香りがあります。


Step 2:HARIO スイッチに粉15gをセット


Step 3:HARIO スイッチのバルブを閉じて、お湯を一気に225g注ぐ(1投式)

HARIOスイッチの「バルブを閉じることで浸漬」「バルブを開けて落とすことで透過」 という特徴を活かした抽出です。手技の差が出ないように、一気に注いでいます。
>>HARIOスイッチの詳細説明はこちら


Step 4:2分30秒経過したらバルブを開けて落としきる


Step 5:飲み比べる

今回の検証では器具を3セット使用し、同時比較を実施しました。


ご自宅での再現ポイント

器具を3セット用意する必要はありません。
ただし、コーヒーは抽出後すぐに味が変化していくため、

1.抽出
2.味・香りをメモ
3.次の条件を抽出

という順序を守りましょう。


結果

粉の香り・抽出液・抽出時の特徴まとめ

条件粉の香り抽出液の印象抽出時の気づき
粉 常温乾燥・粉っぽい・抜けた香り・きなこ軽い/酸味が弱い/香りの厚みがないガスが少なく、湯抜けが早い
粉 冷凍チョコレート・ベリー明るい酸味・軽い口当たり予想よりガスを含んでいる
豆 冷凍スパイス・チョコ・ベリー(最も強い)香りが広がる/後味に少し尖った苦味、ぴりつきガス量が多い

考察

粉常温 vs 粉冷凍


粉を常温で保存した条件では、

  • 香りの弱さ
  • ガス量の少なさ
  • 抽出液の軽さ

が明確に感じられました。
これは、粉砕による表面積の増加常温という保存環境が重なり、香気成分の揮発および酸化が急速に進行したためと考えられます。

コーヒーの香りを構成する揮発性化合物(アルデヒド類、フラン類、ピラジン類など)は、保存温度が高いほど変化や消失が早くなることが報告されています。
Gantner ら(2024)は、保存温度が高い条件ほど揮発性成分のプロファイル変化が大きくなり、官能評価においても香味の劣化が早期に現れることを示しています。

また、粉砕によって豆の内部が露出すると、酸素との接触面積が飛躍的に増加します。
Baggenstoss ら(2010)は、粉砕や粉砕後の取り扱いが香気成分の損失に大きく影響することを示しており、粉砕直後から香りの減衰が始まることを実験的に示唆しています。

これらの知見を踏まえると、

表面積の増加(粉砕)+常温保存
= 最も劣化しやすい条件

であると考えられます。
今回の「粉常温」条件で、コーヒーの立体感や明るさが失われていた結果は、この考えとよく一致しています。


豆冷凍 vs 粉冷凍

冷凍保存条件同士の比較では、豆のまま冷凍した条件が最も香りが強く、飲んだ時のフレーバーの広がりも大きい結果となりました。
一方で、後味にわずかな「ぴりつき」を感じた点が特徴的でした。

Uman ら(2016)は、豆を低温状態で粉砕することで揮発性成分の損失が抑制され、粒度分布が均一化することを報告しています。
この研究は、「低温 × 粉砕」という条件が香り保持に有利であることを示しており、冷凍庫から出してすぐに粉砕した豆冷凍条件において得られた結果とも整合しています。

一方、豆冷凍条件で感じられた「ぴりつき」については、焙煎後のエイジング不足が影響している可能性が考えられます。
焙煎直後のコーヒー豆には、二酸化炭素や未安定な成分vが多く含まれており、これらは時間の経過とともに徐々に落ち着いていきます。

今回使用した豆は、焙煎後比較的早い段階で冷凍保存されていたため、
本来エイジングによって減少するはずの「若い苦味」や刺激感が、冷凍によって保持された可能性があります。


総合的な考察

本検証から、

  • 粉砕による表面積の増加
  • 保存温度の違い
  • 焙煎後エイジングの有無

が、味や香りに大きな影響を与えることが確認できました。

学術的にも、
「粉は豆よりも劣化が早い」
「低温保存は揮発性成分の変化を遅らせる」
という点は複数の研究で一貫して示されています(Gantner et al., 2024Baggenstoss et al., 2010)

一方で、冷凍保存は「鮮度を固定する」手法であるがゆえに、保存開始時点の状態(焙煎直後か、エイジング後か)もそのまま固定してしまう点には注意が必要です。

以上を踏まえると、単に「豆を冷凍すればよい」というわけではなく、

適切にエイジングした後、豆のまま冷凍保存する

ことが、香りの強さと後味のバランスを両立させる保存方法であると考えられます。


結論

今回の検証から、コーヒー豆の保存方法によって味や香りに明確な違いが生じることが確認できました。

  • 粉を常温で保存した場合は、粉砕による表面積の増加と常温環境が重なり、
     香気成分の揮発や酸化が進みやすく、鮮度の低下が顕著でした。
  • 冷凍保存は全体として良好な結果を示しましたが、
     粉の状態よりも豆のまま冷凍したほうが、香りの保持とフレーバーの広がりに優れる傾向が見られました。
  • ただし、焙煎直後の豆をそのまま冷凍した場合には、
     後味に「若い苦味」や刺激感が残る可能性がある点も確認されました。

以上を踏まえると、本検証条件下における最適解は、

焙煎後に1〜2週間エイジングを行い、その後、豆のまま冷凍保存すること

であり、
香りの強さと後味のバランスを両立しやすい保存方法であると推測されます。

なお、焙煎度や豆の産地、抽出条件によって最適なエイジング期間や保存方法は変化する可能性があるため、今後も条件を変えた検証を継続していきたいと考えています。


今後の課題

  • 焙煎からのエイジング期間による違い
  • エイジング期間 × 保存方法 × 抽出条件 の多変量比較
  • 他の焙煎度・産地での検証

参考文献

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